第2回 トレーナー試験
米国では指導者としての資質を証明するトレーナー試験が実施されています。これは主に技術者が技術的な内容を効果的に指導しているかどうかの試験です。例えばコンピュータ分野で知識や技術力が豊富でも、企業や教育機関で良い教育を出来る指導者かどうかを試験し、免許状を出すのです。これは小学校、高等学校の教員免許状とは違います(一般の教員免許状は教育実習を行った州の免許状が授与される)。
現在のところ試験を実施している分野はコンピュータソフトウェア、産業・生産、保険、テレコミュニケーション、健康などです。これらの分野で豊富な知識と、優れた指導技術や指導力を試験するのです。筆記試験と指導内容をビデオ撮影し評価します。その内容は実践に近い設問で、なかなか考えさせられる問題だと感じました。ビデオ試験は成人5名ぐらいが受講者の役割をし、指導目的、指導手順、指導実践、指導教材などを20分以内で、すべて効果的に打ち出しているかどうかが評価の対象となっています。もう、専門分野を熟知しているだけでは、良い指導者とは評価されない世の中になってきているのですね。
この免許状を取得すると実質、世界中で指導できる資格を得たのも同然の試験です。これは日本でもおなじみのTOEFL、TOEIC、GRE、GMATのような世界中に通用する公認試験と同等の扱いです。TOEFLは英語圏の大学や大学院へ留学を希望している受験者が受験するように、そのトレーナー試験も世界中で実施されています。
米国では、さらに高度なレベルの指導者を養成するために、かなり細かい部分までも評価対象にしつつあります。まさに専門分野のプロを育てるための試験と言ってもいいでしょう。プロ意識を高めるために大学や大学院で高度な実践的教育をしていることは知っていましたが、さらに高度なレベルを求め、そのトレーナー試験を推進しているのには驚きました。視聴覚機器を効果的に使用することは勿論、授業中の声の大きさ、目線などに至るまでチェックされ、そして何より大切な授業の目的やその内容が最初・中間、・最終まで明確であること。それに論理的に、授業を進めていることなどが要求されます。受講者のことを最優先に考え、講義内容を理解しやすいように配慮し、知識と技術を修得できたと思わせ、満足できる授業でなければならないのです。勿論、受講者は学習意欲が十分であることを前提としていますが。
日本でもトレーナー試験は受験できるようになっていますが、まだそれほど知られていません。専門分野をある特定のものだけに制限させずに、日本の実情を汲んだ評価方法として確立すれば、普及の可能性は高くなるでしょう。
今後は、専門分野で博士号を取得した上で、さらにこのトレーナー試験の免許状を取得した指導者のみが大学で教員採用されることになってくるかもしれませんね。米国では特定の専門分野の採用条件として、既にこの試験結果を考慮しているところもあります。私のように大学教育に携わる教員は、専門知識や技術を授業で学生に指導するだけではなく、人材育成のためにいろいろなこともアドバイスしなければなりませんし、学生がトレーナー試験に合格できるような授業を行うこともが求められてくるでしょう。私自身は毎日が試行錯誤で、授業を楽しみ、学生に専門知識や技術を伝え、さらに学生がその知識や技術をベースに飛躍できるように指導することも必要である、といまさらながら自己反省をしている次第です。各専門分野のテクニカルトレーナー試験が次々と作成され、広く利用される時代がすぐそこまで来ている感じがします。
剣道で「見事な一本」という表現がありますが、これは自分だけでなく、相手、観衆が見事な打突と思った時に使われると言っている人がいました。このトレーナー試験は指導者、受講者、第三者から「見事な指導者」と評価される試験ではないかと思います。